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災(わざわ)いを転じてベジタブル・ミュージシャンに
中川 はたさんは、野菜でも何んでも笛にして吹いてしまわれるとか。
はた ええ。大根、サツマ芋…その他、水道パイプやゴムホース、ゴルフボールとかいろいろですね。
中川 えっ、ゴルフボール? そんな物まで吹けるのですか。
はた ええ、いろいろなものに挑戦していますから(と、実際にカバンから穴を開けたゴルフボールを取り出して吹く)。
中川 へえー、驚きましたね(笑)。
はた 尺八など日本の楽器は、5つ穴です。琴や三味線も融通性がありますでしょう。譜面に書けないものも表現できるんです。ゆとりと言いましょうか。
私の野菜などの笛も5つ穴。微妙に音程が狂った方が、何とも言えない温かみがあっていいんですよ。ビシッと演奏するのなら、楽器を使えばいいんですから。
中川 究極のアナログ!(笑)。
はた 今はこういう様々なものを吹いていますが、最初はテナーサックスを、それから尺八、横笛などでした。
中川 では、最初はお笑いではなく真面目なものだったんですね。
はた そうです。進駐軍のパーティにジャズバンドの一員として出演していました。でも、根がお笑いが好きなんでしょう、まもなくコミックバンドを作ったり、ボーイズを結成し、3人で漫談をするようになりました。
そのうち仲間の一人が病気で辞めたので解散して独立しましたが、テナーサックス一人では、なかなかお笑いは難しいんです。それで尺八を吹くようになって。
あるとき、楽屋に置いていた尺八が湿度の関係でヒビが入ってしまい、鳴らないんですよ。時間がないというのに、さあ、困った。ふと見ると裏の方に水道パイプみたいなものがあったんで、苦肉の策だったのですが、とっさにそれを持って舞台に上がって、喋りながら鋸と錐で穴を開けて吹いたら、これがお客様に大受けして。
中川 ハハハ…尺八の代わりに水道パイプとは、なかなか思いつきませんよね。
はた 水道パイプが吹けるんなら、ゴムホースはどうだろう? あれはどうか、これはどうか、と広がっていったんですよ。尺八は顎を振ってビブラートをかけるけれど、ゴムホースはホースの方を振る(笑)。
中川 災いを転じて福と成す、ですね。私もよくお話しさせていただいているんですが、同じですね。例えば、病気になるというのは災いのように思われがちですが、病気になったことによって、素晴らしい氣づきを得られたりするんですね。
はたさんも尺八が壊れてしまうという災難をバネに芸を広げていかれた。今年の正月の芸能人隠し芸大会も指導なさったとか。
はた そう、そう。鈴木あみさんにサツマ芋、深田恭子さんに大根でした。私は隠し芸ですから教えるだけで隠れてた(笑)。野菜はナマモノですから、練習する度に作らなくてはならないのです。太さも長さも違うから、穴の開ける位置も大きさもその度、違います。
中川 サツマ芋は芋の音がするんですか(笑)?
はた では、ちょっと吹いてみましょうか。(袋からサツマ芋を取り出して、お手々つーないでー、とメロディーを吹く)
中川 澄んで綺麗な音ですね。とても、芋とは思えない(笑)。
笑う門に福来たる、笑うとヤル氣が出ます
はた 私は、外国に行っても言葉はいらないのですよ。「オー! ベジタブル・ミュージシャン、ワンダフル!」と、大喜びしてくれますし、芸として、高く評価してくれます。日本代表として「一芸名人世界大会」にイギリスに行って、世界第2位をいただいたときのことですが、当地では大根は食べないそうで、どこにも無くてロンドン中、探し回りました。やっと、日本料理屋さんで分けてもらったんですが、柔らかくて、吹きづらかったです。
野菜の中でも、ナスは鳴りませんですね。音がナス、ですから(笑)。私はいつでも、まずはお客さんに笑っていただく。笑うことは、本当に健康にいいですから。健康のためにも、笑いは大事です。
中川 笑う門に福来たる、ですね。笑うことで、幸せになっていく。気持ちが明るく楽になっていきます。
はた 笑うということは、プラスですからね。マイナス思考をプラス思考にする。そうすると、ヤル氣というものが出てくるような気がします。
中川 そうですね。マイナスからプラスに変わっていくと、益々周りからいい氣がやってきて、戴けるようになるんです。
はた 私は今年で74歳になるのですが、こうして元気で若々しく(笑)いられるのは、私の芸を見て笑って下さるお客さんのお蔭なんです。皆さんのいい氣を戴いている。
実は40年ほど前に右の小指を突き指したのです。指が腫れ上がってサックスが吹きづらくてしょうがない。そうしたらお客さんが私の小指を両手で挟んでね、何してるのかなと思っていると、ポワーと温かくなって腫れがひき、指が曲がるようになっちゃった。すごいなァ、と感嘆した思い出があるんです。
中川 それはまさしく、氣ですよ。それも氣ですし、はたさんが皆さんから戴いているのも、反対に皆さんに与えているのも氣で、氣にはいろいろあります。
はた 氣が合うと、すぐに舞台と観客が同調してうまくいくのですが、ときどき、私たちの業界用語で「スベル」と言うのですが、うまくのらないときがありますね。
でも、マイナスがあってこそのプラスですから、マイナスも一概に悪いとは言えませんですよね。アァ、きょうはスベッちゃったけど、次は何とか失敗したことを反省し工夫し乗り越えようと努力して、また一段、芸が進歩するのですから。
中川 その通りですね。「スベル」という一見マイナスのことも、それがあったお蔭で大きなプラスに変わっていくんですね。
お客さんもいろいろな氣を持っている方がいらっしゃるから、そのときそのときで会場の雰囲気が違うでしょう。
はた そうなんですよ。お金払って笑いに来たんだから、さあ笑うぞ、というお客さんは勿論のりやすいですけれど、中には、全く笑わない人もいますから。
中川 あまりにも辛いことや悲しいこと、怒り、不安、疑いなどマイナスの氣をたくさん持っていると、人は笑えないですよね。
はた そうですね。笑わないお客さんに、何とかリラックスしていただきたくって、観客全体に気持ちを掛けながらも、その人にも意識してこちらの気持ちを届けようとしていますが、ニコッとしてくれると、もう、ヤッタァ!と嬉しくなりますね。
中川 舞台と観客の氣の交流ですね。
はた そうなんです。芸人と観客が場を共有して、舞台を作り上げて行く。だから、私は実演を大事にしているのです。
テレビだと、こうはいきません。演じる人がいくら働き掛けても、返ってくるものがない。一方通行ですね。
テレビを見ている方は、寝そべって見ていてもいいし、画像は瞬間でしょう。でも、実演は、劇場を出ても、家に帰っても、まだ余韻がある。実演は、生きているんです。
中川 なるほど、余韻ねえ。これも氣ですね。生きているものには氣がありますから。
はた そうは言っても、多くの方に知っていただきたいために、テレビにも出演することはあります。NHKに出たときは、失敗しちゃった。リハーサルのときはとてもうまくいったんですが、本番で大根が萎びちゃってよく音が出なかった。ライトが強すぎたんですよ。そんな失敗もありますが、まあ、つねに研究、勉強の連続ですね。極めるなんていうことは、ありませんね。
まず自分がリラックスして楽しんで
はた 今はお笑いが変ってきてしまっています。テレビに出ている芸能人は、いわゆる芸だけでは笑わせられないからと、おおげさな扮装やアクションをして、転がったり、喚いたり…あれは芸ではありません。
私は、あくまでも芸を磨いていきたいんです。まあ長年やっていますと、笑わそうという気がなくても笑ってくれるんですね。
中川 はたさんは、もうどのくらい?
はた 50年になります。
中川 ほお…結婚だったら金婚式ですね。たくさんのそれぞれ違う氣を持った方々が笑ってくださるのは、はたさんが50年の長い間に、いろんな方々とチャンネルを合わせられるようになられたのでしょう。
はた このごろになりますと、お客を引いたり、放したり…。いわば、氣のやり合いですね。はじめは、引っ張ることばかり一生懸命でしたけれど、引っ張りっ放しでは、お互い疲れちゃう。
中川 周りの氣が、お分かりになるんですね。今お聞きしていて、笑わそうと思うと、きっと“我”みたいなものが入ってうまくいかないんじゃないかな、と思ったんですが。
はた そう。お客さんを緊張させないことですね。それにはまず、自分が緊張せずにリラックスして、楽しくですね。そして、笑わそう、というのとはちょっと違って、笑っていただきたいなと思う気持ちです。
中川 まずは相手を変えよう変えようとするのではなくて、自分が変わっていくことが大切だと、先代がよく言っていました。私も皆さんに氣をお分けしながら楽しいんです。
私がリラックスして氣をお分けして、いい気持ちになられた皆さんを見て、嬉しくなるし、またそういう皆さんからいい氣がいただけて、楽しいし、有り難いなと思うのです。
はたさんも、いろいろな笛を作っている段階から、結構楽しんでいらしゃるのではないですか。仕事だと割り切ってやっていらっしゃるというよりは。
はた そうです、そうです。作ることは好きですから。子供の頃から何かしら、目覚し時計や蓄音機などを分解、解体したり、組み立てたりしていました。
笛にする材料も、それから、それにどうやって穴を開けたらいいかなと、道具だって全部自分で考えなければいけません。世界にただ一人しかいませんから、こんなことしているの(笑)。
最初は、ノイローゼ気味になりましたよ。空き缶、空き瓶、蛍光灯、椅子の脚、ほうき、はたき…物を見るとなんでも、これは吹けるかな? と。吹けないものは、掃除機のホース。これは吸うものですから(笑)。
また水道パイプでは、黒田節や大漁節などは吹けませんね、尺八と違って節が無いから(笑)。
中川 ハハハ。私の父ですが、先代ももとは時計屋でしたし、物を作るのは、得意でしてね。夢で作り方を教えられて、その通りに作ったら出来たのがハイゲンキなんですよ。
はた ええ、ご本を拝読しましたが、そうなんですってね。機械から氣が出るなんて、なかなか信じてもらえなかったのではありませんか。
私も子供たちの前で演じたりすることがあるのですが、後ろの幕の裏側で誰か隠れて笛を吹いているんじゃないかと、見に行ったりする子もいますよ。大人だって、小細工していないか、って疑る人がいるので、吹き終えた大根やサツマ芋の笛をスパッと切って、お見せするときもあります。
野菜の笛ですらそうですから、ましてや、氣が出る機械なんて、相当疑う人もいたことでしょう。疑うと、なかなか氣が行かないんじゃないでしょうか。
中川 そうです。氣は音も出ないし、見えませんからね。はじめは水やお酒などに当てて、味が変った、なんてやっていたのですが、体の具合の悪い人に当てたら次々と良くなっていくんです。体験すると分かりやすい、ということはありますね。先程のはたさんの突き指みたいに。

野菜の笛は感謝しておでんにして食べます
はた ところで、これはいただいた石笛なんです。石笛は神様をお呼びするときに吹いたとかうかがっていますが、まだ慣れないのでいい音が出ません。よっぽどイシを強くして吹かないと神様においでいただくまではなりませんでしょうね(笑)。
中川 先代は、よく「神を信じ 人を愛す」と言っていました。特定の宗教を信じていたわけではなく、大自然の宇宙の大いなる存在を神と呼んだのでしょうが、今は宗教絡みのいろいろな事件などもあって、神を信じる人がどんどん少なくなってきていますね。
はた そうですね。太陽を神と思ったらいいのではないでしょうか。何と言っても太陽あっての私たち、生きものですから。神を信じないというのは、感謝の気持ちが薄らいでいるということでしょうね。生まれて来たのも感謝、生きていることも感謝です。
中川 自分だけで生きているんではない、ということに氣づくことが大切だと思います。自分が生きている、存在しているということは、本当に縦の繋がり横の繋がり、すべての存在のお蔭様なんです。
はた その通りですね。世の中、独りでは生きていかれません。お蔭様の感謝の気持ちを大事にして、自分の、そして他の生命を大切にしていかなくてはね。
この石笛だって、生きものです。生きものには魂がありますから。大自然の中の生きものである石に、貝が穴を開けたんですね。よくこんな穴が開けられたものだと、感心してしまいます。
石もそうですが、野菜だって勿論、魂がありますでしょう。だから私も、舞台で吹く前に大根や人参、サツマ芋の笛を両手で掲げ、感謝の気持ちを込めて一礼します。そして吹いた後は、家に持ち帰っておでんの具として料理して家族で食べてしまいます。仕事が忙しいと、おでんばっかり(笑)。
子供が小さい頃、外でおでんを食べたことがあったんですが、「この大根、穴がない!」と、びっくりしていました。
中川 普通、大根に穴はない(笑)。
はた おでんの具で一番最初に笛にしたのは、竹輪でした。尺八が竹で作られていますから、竹の輪でも吹けるかな、と(笑)。他にはコンニャクも吹けました。穴が開いていると、おでんにしたとき味が染み込んで美味しいです。
中川 竹輪さんも人参さんも喜んでいることでしょう。料理されて食べられる前に、はたさんの野菜たちは、もうひと働きして、皆の注目を集めて喜んでもらえるのですから。
今日は、楽しいお話や、珍しい野菜、水道パイプなどの笛の音を聞かせていただき、大変おもしろく、大いに笑わせていただきました。
はた こちらこそ、氣のお話、大変興味深かったです。会長さんにお目にかかった途端、いい方だと、すぐ分かりました。
中川 それは、それは、ありがとうございました。
(構成・須田玲子)
2001年1月21日 東京センターにて
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